知的財産権侵害事件の懲罰的損害賠償 上海で初の判決(2019‐09)
某スポーツ器材メーカー(以下、「被告」と称する)が生産・販売するフィットネス器材が自らの商標権を侵害するものだとして、ある外国企業が上海市浦東新区人民法院(以下、「上海浦東法院」)に提訴し、侵害差止めのほか、弁護士費用や公証費用等を含む経済的損失計300万元(日本円にして約4670万円)の賠償を支払うよう求めた。
上海浦東法院は、本件商標は高い識別力を有し、かつ原告及びその協力企業による持続的な使用と広域にわたる広告宣伝活動によって、すでに原告との唯一の対応関係が築かれていることから、被告が同一種類の商品において本件商標と同一の標章を使用した行為は、原告の商標権を侵害するものだと判断した。
被告は自らが侵害行為によって得た利益を明らかにするための販売データ、財務帳簿及びその元となる証拠を提出することを拒否したため、上海浦東法院は、被告の微信(WeChat)の広告宣伝内容に基づき、同類商品の価格や被告の自認による酌量等に鑑みて、被告が侵害行為によって得た利益が101.7万元から139.5万元の間であるものと認定した。「商標法」では、悪質な商標権侵害行為で情状が重大な場合、権利者の実際の損失、権利者が侵害により受けた利益、又は商標許可料の合理的な倍数により確定した金額の1倍以上3倍以下の金額に基づき賠償金額を確定することができるものと規定されている。
以前、被告は原告の本件商標権以外の商標権や特許権を侵害するものとして原告から警告を受け、再び侵害行為を行わないよう和解協議が締結されていた。今回の事件は、被告と原告との間でこのような和解協議が締結されていたにもかかわらず、再度発見された被告の商標権侵害行為に対して提訴されたものである。被告は従前通りに原告の商標と商品を模倣してO2O(online-to-offline)による複数のチャンネルを使って販売し、かつ商品には品質的な問題があった。このような事情に鑑み、被告の行為は懲罰的損害賠償の「悪意」と「情状が重大である」という適用要件を満たすものと判断し、上海浦東法院は最終的に被告が侵害により受けた利益の3倍を懲罰的賠償金の金額として定めた。そこで、被告が侵害により受けた利益の3倍の金額が原告の求める賠償金額300万元を上回るものとなったため、原告の求めた費用の全額を支持する判決が下された。
本事件は上海で初めて知的財産権侵害事件において懲罰的損害賠償が認められた事件であり、上海浦東法院が懲罰的損害賠償制度を積極的に導入し、懲罰的損害賠償制度の適用条件や賠償金額算定等について審理したことは、今後の同様の事件の審理に大変参考となるものといえる。
(中国新聞網より改編)