「商標権侵害判断基準」の施行 (2020-6)
中国国家知識産権局は2020年6月15日付で「商標権侵害判断基準」を公布し、同日から施行した。
該判断基準は、全38条で構成されており、商標としての使用、商品の同一・類似の判断、商標の同一・類似の判断、出所の混同、販売者の免責、他の知的財産権との抵触、行政処分・侵害訴訟の中断、権利者による識別意見の提出などについて細かく規定している。以下、その内容を簡単に紹介する。
一、商標の使用について(第3条~第7条)
第3条第1項は、一般的に、商標権侵害行為の有無を判断するためには、商標としての使用の有無を判断する必要があることを述べている。第2項では、さらに、商標の使用の定義を明確にしている。具体的に、商標の使用とは、商品の出所を識別するために、商標を商品、商品包装、容器、役務の提供場所および商品取引文書に使用する行為、又は商標を広告宣伝、展示およびその他のビジネス活動に使用する行為をいう。
第4条~第6条は、それぞれ、商品、役務、広告宣伝又はその他のビジネス活動で商標を使用する具体的な形態を列挙している。特に、第6条の(3)、(4)では、インターネット時代に合わせて、ウェブサイト、インスタント・メッセンジャー、ソーシャル・ネットワーキング、アプリケーションプログラム、QRコードなどの新しい表現形式が追加された。
第7条では、商標の使用の判断原則が示された。即ち、商標の使用に当たるか否かを判断する際は、使用者の主観的意図、使用方式、宣伝方式、業界の慣例、消費者の認知などの要素を総合的に考慮する必要がある。
二、商品(役務)の同一・類似の判断について(第9条~第12条)
第9条~第12条では、商品(役務)の同一・類似の判断基準が規定された。また、商標権の登録審査と権利行使における基準の統一と安定化を図るために、行政ルートでの商標保護における商品の類否は、現行の「類似商品及び役務区分表」を参照して判断することを明確にした。
三、商標の同一・類似の判断について(第13条~第18条)
第13条~第18条では、商標の同一・類似の判断基準が規定された。そのうち、第14条と第15条では、文字商標、図形商標、文字と図形の組み合わせ商標などの伝統的なタイプの商標の他に、立体商標、色彩の組み合わせ商標、音声商標などの新しいタイプの商標の同一・類似の判断基準も示された。第16条では、さらに「商標審査・審理基準」が行政ルートでの商標権保護において果たす役割を明確にすべく、行政ルートでの商標侵害事件における商標の類否判断は、現行の「商標審査及び審理基準」の規定を参照して行うべきことが示された。また、第18条では、商標の同一・類似判断の一般原則が示されたが、これは、最高人民法院による「商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」における判断原則とほぼ一致している。
四、出所の混同について(第19条~第21条)
第19条は、「混同をまねきやすい」ことが商標権侵害判断の要件の1つであることを明確にした。第20条において、「混同をまねきやすい」2つの類型が具体的に示された。一つは、関連公衆に、係る商品又は役務は登録商標権者により生産又は提供されたものであると思わせる場合、もう一つは、関連公衆に、係る商品又は役務の提供者と登録商標権者との間に投資、ライセンス、フランチャイズ又はアライアンス等の関係が存在すると思わせる場合である。第21条は、混同をまねきやすいか否かを判断する際に考慮すき要素を明確にしており、商標の類似性、商品(役務)の類似性、登録商標の識別顕著性及び知名度、商品又は役務の特徴及び商標の使用方式、関連公衆の注意力と認知のレベル、又はその他の関連要素を考慮すべきことを規定している。
五、商標権侵害行為について(第8条、第22条~第26条、第30条及び第31条)
第8条、第22条~第26条、第30条及び第31条では、具体的な商標権侵害行為が列挙された。挙げられた類型には、商標権者の許可を得ずに、又は許可された商品・役務、期間、数量を超えて商標を使用すること(第8条)、勝手に登録商標を変更したり複数の登録商標を組み合わせたりして同一・類似の商品における他人の登録商標と同一の商標を使用すること(第22条)、会社名称における商号部分を突出して使用することにより同一・類似の商品における他人の登録商標と同一の商標を使用すること(第23条)、同一・類似の商品における他人の登録商標にフリーライドする目的で色彩を指定せず登録した商標に色を付けて使用すること(第24条)、加工・材料を請け負う加工委託製造において他人の商標権を侵害する商標を使用すること(第25条)、販売活動において他人の商標権を侵害する商品を贈ること(第26条)、市場・展示会・ブース貸し・オンラインモール経営者等が管理義務を怠り権利侵害行為を幇助すること(第30条)、及び他人の登録商標と同一又は類似する文字をドメイン名として登録すること(第31条)が含まれる。
六、商標権侵害の抗弁について(第27条~第29条、第32条及び第33条)
第27条及び第28条には、販売者の免責要件が規定された。そのうち、第27条は、「商標法」第60条第2項に規定される「登録商標専用権侵害商品であることを知らずに販売すると認定される5つの状況を明確にし、第28は、「提供者について説明できる」との要件を満たす状況を明確にした。第32条は、商標権と他の知的財産権(意匠権、作品著作権)との抵触時の処理に関して規定しており、商標出願日を判断基準とすることを明確にした。第33条は、先使用商標の抗弁に関するものであり、商標法第59条第3項に規定の「一定の影響力がある商標」、「元の使用範囲」などの要件について具体的に規定した。
七、商標権侵害行為の再犯について(第34条)
第34条は、「商標法」第60条第2項に規定された再犯行為に対する処罰の適用基準を明確にしており、「5年以内に商標権侵害行為を2回以上行っている」とは、同一当事者が、商標の執法関連部門、人民法院などによる他人の商標専用権を侵害した旨の行政処罰又は判決の発効日より5年以内に、再度商標権侵害行為を行ったことを指すことを明確にした。
八、中断の適用について(第35条)
第35条は、商標権侵害の行政ルートによる保護手続き又は侵害訴訟が中断される3つの状況を明確にしている。即ち、登録商標が無効審判中、更新手続延長期間中、又は所有権の紛争がある場合に、中断規定を適用できることが示された。これにより、その他のプロセス、例えば異議申立や三年間不使用取消審判などによる中断規定の適用が排除された。
九、権利者による識別意見について(第36条)
第36条では、商標権者が行政ルートでの保護手続きにおいて、イ号商品が自ら製造したもの又はライセンスに基づいて製造された物であるか否かに関する識別意見を提出すること、及びその提出した識別意見に対して法的責任を負うべきことが規定された。執法機関は、識別意見を提出した主体の適格性、及び識別意見の真実性を審査した上で、被疑侵害者が反証を提出できない場合には、当該識別意見を証拠として採用すべきであることが示された。
公表された「商標権侵害判断基準」は、全38条とコンパクトながら、商標権侵害の様々な側面について具体的な判断基準を設けており、実務の指標となるものである。本判断基準は、主に国家知的財産局商標局における、いわゆる行政ルートでの権利行使に適用されるが、判断基準として審査段階の「類似商品及び役務区分表」や「商標審査及び審理基準」を参照することが規定されており、また、商標侵害訴訟に関する人民法院の司法解釈における対応する規定とも一致している。全体として、商標の出願、権利化から行政ルート及び司法ルートでの権利行使まで、各方面の判定基準の統一と整合が図られている。
このような判断基準の制定は、商標の行政ルートと司法ルートとを組み合わせた有効な権利行使を可能とし、権利者の保護を強化し、効率的な侵害行為の抑制に役立つものである。
(国家知識産権局ウェブサイトより改編)