最高人民法院 「知的財産権をめぐる紛争における行為保全事件の審査における法律適用の若干の問題に関する規定」を公布(2018-12)

2018年12月13日、最高人民法院(最高裁)は、知的財産権保護の強化を目的とする「最高人民法院 知的財産権をめぐる紛争における行為保全事件の審査における法律適用の若干の問題に関する規定」(以下、「行為保全規定」とする)を公布した。当該規定は2019年1月1日より施行される。

   「行為保全規定」は21条で構成されており、主に以下の4つの内容が含まれている。

1. 手続に関する規則

手続に関する規則としては、申請主体、管轄裁判所、申請書及びそれに明記する必要のある事項、審査手続、復議等の内容が定められている。民事訴訟法第100条及び第101条では、緊急時に申請された行為保全に対して、人民法院は受理してから48時間以内に決定を出さなければならないと規定されているが、「行為保全規定」第6条では、「緊急時」に該当する場合を列挙するとともに、緊急時とは、「直ちに保全措置を取らなければ申請人の利益に損害を与えることが十分可能となる場合」でなければならないと明確に示している。なお、緊急時ではない場合の訴訟中の行為保全申請について、民事訴訟法では明確な審査期間が規定されていないが、その場合であっても人民法院は速やかに審査を行い、決定を出すべきであり、さもないと、手続上の救済措置の1つとしての行為保全が本来有するべき即時性が損なわれるものと考えられる。

2. 保全の実体的内容に関する規則

保全の実体的内容に関する規則としては、行為保全の必要性の考慮要素、行為保全措置の効力期限等の内容が定められている。「行為保全規定」第7条では、行為保全申請を審査する場合に考慮すべき5つの要素が規定されている。第8条から第10条においては、第7条を適用する際のより操作性の高い判断方法や認定基準が示されている。第9条では、実用新案権又は意匠権を根拠として行為保全を申請する場合のより厳格な要求が示されている。第10条では、行為保全申請を審査する際に重要な考慮要素となる「補うことができない損害」の具体的な状況が規定されている。

3. 行為保全申請に誤りがあることの認定及び申請の誤りによって提起される賠償訴訟の管轄、行為保全措置の解除等について

  「行為保全規定」第16条では、どのような場合において行為保全申請に誤りがあるとみなされるかが規定されている。申請の誤りの認定には客観的な帰責事由が必要とされ、通常の民事権利侵害案件において採用される過失責任とは異なるものとなっている。「行為保全規定」第17条は行為保全措置の解除に関する規定で、当該規定では、裁判所は審査によって事件の情状が民事訴訟法司法解釈第166条に規定されたものに該当すると判断した場合、5日以内に解除の決定を出さなければならないものとしている。これは、民事訴訟法司法解釈における保全(財産保全と行為保全を含む)解除の具体的な要件に関する規定に関連している。民事訴訟法司法解釈の規定において、保全解除すべきであるとみなされる場合のひとつとして「保全に誤りがある場合」が挙げられており、申請そのものに誤りがあった場合も「保全に誤りがある場合」のひとつとしてみなされる。従って、申請に誤りがあった場合、保全措置を直ちに解除しなければならないこととなる。

4. 同時に異なる類型の保全を併せて申請した場合の処理方法、申請費用等の問題について

司法実践において、行為保全、財産保全又は証拠保全を同時に申請する場合がある。「行為保全規定」第19条では、人民法院は異なる類型の保全が民事訴訟法及び関連する司法解釈に規定される条件を満たしているか否かをそれぞれ審査しなければならないと明確に規定している。申請費用について、「行為保全規定」第20条では、「申請人が行為保全を申請する場合、『訴訟費用納付弁法』における行為保全措置の申請に関する規定に基づき申請費用を納付しなければならない。」と規定している。

  「行為保全規定」は、知的財産権の保護を強化するために、最高人民法院が審判実践における経験を総括して、行為保全制度を整備したものである。当該司法解釈の施行によって、科学技術の促進やビジネス環境の改善に積極的且つ重要な効果を発揮することが期待できる。



(最高人民法院ウェブサイトより改編)