改正「独占禁止法」の紹介(2023-2)

 2022年6月24日、全国人民代表大会常務委員会において、「中華人民共和国独占禁止法(改正草案)」(以下「独占禁止法」という)が可決され、改正「独占禁止法」は2022年8月1日より施行された。今回の法改正は、「独占禁止法」が2008年8月1日に効力を生じてから14年経過して初の改正となる。

今回の「独占禁止法」の改正内容は、「総則」、「独占協定」、「市場支配的地位の濫用」、「事業者集中」、「行政権力の濫用による競争の排除、制限」、「独占的行為と疑われる行為に対する調査」、「法的責任」などの7章に関わっており、幅広い範囲にわたっている。条文数は、追加された12条の新規規定と、旧条項から分割された1条とを含め、57条から70条に増えた。以下、注目すべき6つの重要な改正点を紹介する。

1. デジタルプラットフォームの独占禁止に関する「専門条項」の導入

今回の法改正で新たに追加された第9条には、「事業者はデータとアルゴリズム、技術、資本上の優位性及びプラットフォーム規則などを利用して本法が禁止する独占行為に従事してはならない」と規定されている。また、第22条には、「市場における支配的地位を有する事業者は、データやアルゴリズム、技術およびプラットフォーム規則などを利用して、市場における支配的地位の濫用行為に従事してはならない」という旨の条項が新設されている。 

このようにプラットフォーム経済分野での独占行為を法律面から規制するのは初めてである。

2021年、中国では、インターネットビジネスの独占行為に対して厳しい制裁が科せられた。国家市場監督管理総局は、「アリババ」および「美団」によるインターネットビジネスの独占行為に対して、それぞれ182.28億元と34.42億元の高額な罰金を科した。これは、インターネットビジネスの独占禁止に対する人々の認識を刷新する行政処罰となった。そして、2021年11月、国家独占禁止局が正式に設立され、中国で独占禁止に関する行政法執行を一つの機関によって行える枠組みが正式に構築された。

オンラインプラットフォームは人々の生活に関係しており、消費者にサービスを提供する重要なものである。同時に、プラットフォームの直接的または間接的な効果とビッグデータの独占により、すでに大手企業がプラットフォーム経済の分野における巨大な参入障壁となっており、「勝者総取り(ウィナー・テイクス・オール)」現象が発生している。そのため、新設されたデジタルプラットフォームの独占禁止に関する「専門条項」は、今回の改正法の中でも注目すべきポイントの1つと言える。この規定によると、関連する業界におけるデータやアルゴリズム、技術、資本上の優位性及びプラットフォーム規則などを濫用する行為は、独占禁止法に違反する可能性がある。

2. 垂直的協定に係る「セーフハーバー」ルールの新設

改正「独占禁止法」は、第二章(独占協定)第18条において、垂直的独占協定として禁止する3つの状況(第三者に対する商品再販売価格の固定、第三者に対する商品再販売の最低価格の拘束、国務院独占禁止法執行機関が認定するその他の独占協定)に対して、国際的に通用する「セーフハーバー」ルールを新設した。具体的には、「事業者が関連する市場における自らの市場シェアについて、国務院独占禁止法執行機関が規定する基準を下回っており、且つ国務院独占禁止法執行機関が規定するその他の条件を満たしていることを証明できる場合は、禁止しない」と規定された。

これは、「セーフハーバー」ルールの適用が垂直的独占協定のみに限られており、水平的独占協定が適用対象外であることを意味している。

国務院が2019年に公表した「知的財産権分野の独占禁止に関するガイドライン」の第13条では、水平的独占協定と垂直的独占協定における事業者の占める市場シェアについて、「競争関係にある事業者の関連市場における市場シェアの合計が20%を超過しないこと」、および、「事業者と取引相手方の知的財産権に係る協定の影響を受けるいずれかの関連市場における市場シェアがいずれも30%を超過しないこと」が規定されている。改正「独占禁止法」の具体的な実施に向けて、関連法規である「独占協定の禁止に関する規定(意見募集稿)」が2022年6月から一般に向けて意見を募集しており、このことから知的財産権分野で既に存在している独占禁止機構による法執行の基準も調整対象となり、関連する分野の企業が今後さらに大きな独占禁止法遵守に向けての挑戦に直面することを意味している。

「セーフハーバー」ルールが導入されたことにより、「独占禁止法」の法整備がさらに進んだ。「セーフハーバー」ルールが効果的に実施されるには、今後公布される関連規定や判例上の適用基準などを待たなければならないため、これからの動向に注目していきたい。

3. 「ハブ・アンド・スポーク型カルテル」を規制対象として追加

改正独占禁止法の第19条には、「事業者は、その他の事業者と組織して独占協定を結んだり、又はその他事業者が独占協定を結ぶために実質的な幇助をしてはならない。」と規定されている。

第19条における独占協定、即ち「ハブ・アンド・スポーク型協定」は、「ハブ・アンド・スポーク型カルテル」とも呼ばれる。伝統的な意味においては、独占協定とは、主に競争者の間で生じる水平的独占協定と、上流と下流にいる事業者間で生じる垂直的独占協定との2種類に分類されるが、実践上は、独占協定の形態は経済業態の絶え間ない発展に伴い多様化しており、伝統的な水平的・垂直的の2種類に限定することは難しくなっている。そこで、独占行為をより具体的に規制するために、水平的・垂直的独占協定以外にこれを補充するものとして、今回の改正では、ハブ・アンド・スポーク型協定も規制対象として追加された。

改正「独占禁止法」の施行後、カルテルに直接関与する「スポーク」が処罰されるだけでなく、カルテルを仲介する「ハブ」も相応の責任を負わなければならないこととなるため、事業者は、自ら関連する独占協定に直接参加しないことはもちろんのこと、他の企業が独占協定を結ぶために仲介者となったり利便性を提供したりしないということにも注意しなければならない。

4. 事業者集中申告制度の整備

事業者集中について、今回改正された「独占禁止法」では第32条および第37条が新設され、「ストップ・ザ・クロック」といわれる制度と種類別・等級別の審査制度が導入された。

ストップ・ザ・クロック制度は、特定の状況下において、国務院独占禁止法執行機構が、重複申告の比率を下げるために、事業者集中の審査期間を計算することを中止するよう決定することができ、かつ事業者に書面にて通知することができるという制度である。改正「独占禁止法」が施行される以前は、審査期間内に許可されなかった申告について、申告者が期間満了直前に申告を取り下げて再申告するという実務が行われており、場合によっては期間の延長を図るために何度も取下げて再申告するというケースもみられた。ストップ・ザ・クロック制度の導入は、手続上の理由による審査遅延を改善し、不必要な取下げと再申告の繰り返しを回避することで、申告者の提出材料の完全性と効率の向上図ることを目的としている。

種類別・等級別の審査制度について、(1)種類別とは、業界別に、異なる業界の特徴に応じて審査する要点を設け、審査の効率と有効性を高めることを、(2)等級別とは、「大きなものは抓み、小さなものは放つ」といったように、注目される重要な業界や同じ業界内で注目される重要な事業者集中のタイプを選別することを意味している。種類と等級の区分けは、審査の品質と効率の向上を図ることを目的としている。

また、「独占禁止法」第26第2項には、事業者集中が国務院の規定する申告基準に達していないが、当該事業者集中が競争を排除、制限する効果を有することを証明する証拠がある場合、国務院独占禁止法執行機関は事業者に申告を求めることができる旨の規定が新設されている。さらに、事業者集中に係る法律違反の罰則を前年度の販売額に関連づけることで、独占協定や市場支配的地位の濫用の場合と一致するようにした。改正「独占禁止法」第58条では、「事業者が本法の規定に違反し集中を実施した場合で、かつ競争を排除、制限する効果を有し又は有するおそれがある場合、前年度の販売額の10%以下の罰金を課す。競争を排除、制限する効果がない場合は、500万元以下の罰金を課す。」と明確に規定されている。

なお、改正「独占禁止法」の実施に伴い事業者集中申告制度が整備されたことで、独占禁止法執行機関が今後、事業者集中申告分野における法執行を継続的に強化する可能性がある。事業者集中の審査は事前審査の形式を採用しており、事業者は、事前に事業者集中申告の準備をしっかりと行い、速やかに申告書類を提出し、独占禁止法執行機関の調査に協力することで、申告の遅れなどによる経済損失を回避することが望まれる。

5. 行政権限の濫用による競争の排除・制限に対する取締の明確化

行政権限の濫用による競争の排除・制限について、改正「独占禁止法」では、公平な競争審査制度の構築(第5条、第45条)、行政権限の濫用による競争の排除・制限行為の範囲の拡大(第10条、第39~45条)、行政権力の濫用による事業者との競争排除、制限のための提携協定締結の禁止(第40条)、「地方保護主義的な制限を排除する」と同時に「地元への差別を防止する」こと(第43条)、面談調査の手続の追加・抑止力の強化(第54、55条)、責任者に処分を与えることの明確化と改正状況の報告責任の追加(第61条)などの規制があげられる。

改正「独占禁止法」は、公平な競争審査制度を法律のレベルに昇華させ、行政権限の濫用による競争の排除・制限行為に対する監督管理について、行為が行われている最中や事後の監督管理から、事前の予防、行為が行われている最中及び事後の禁止までの全過程における監督管理へと変更されたことで、かつてはソフトな制約が厳しいものとなった。

6. 法律違反行為に対する罰則の大幅な引き上げ

改正「独占禁止法」では、独占協定、事業者集中、調査への協力拒否などの面で、罰金の上限額を大幅に引き上げ、また独占行為に対して「両罰規定」を適用し、事業者のみならず、関連する責任者に対しても処分を与えるよう規定されている。処罰の金額および基準について、改正「独占禁止法」では2008年法から以下のように改正された。

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上記新旧「独占禁止法」の比較からもわかるように、今回の法改正では、独禁法違反行為に対する処罰基準が整備され、独占協定締結時の主な責任者個人の責任が追加され、事業者集中と調査妨害に係る事件の罰金額が引き上げられ、「倍額処罰」制度が新設された。また、改正「独占禁止法」では、さらに信用記録制度(第64条)が導入され、刑事責任が追及されることについても言及されている(第67条)。つまり、改正「独占禁止法」では、企業および個人の違法行為に対する罰則が大幅に強化された

改正「独占禁止法」が有効的に実施されるには、今後の関連規則の公布や実務上でのさらなる明確化が求められ、それにより企業の独占禁止法対応にもより明確な基準がもたらされるであろう。企業には、今後の関連する法律規定の動向により一層注目し、総合的な視点で適切な戦略を立てることが求められている。