最高人民法院が2024年知的財産保護状況を公表
最高人民法院と知財局が2024年の知的財産権保護状況に関するデータを公開
中国では、毎年4月26日の世界知的財産の日前後に、人民法院や知的財産局から、前年の知的財産権保護状況に関する統計データが公表される。
本記事では、2025年4月21日に最高人民法院が公表した「中国法院知的財産権司法保護状況(2024年)」、2025年4月27日に知的財産局が公表した「2024年中国知的財産権保護状況」に基づき、2024年の司法ルート・行政ルートでの知的財産権の保護状況に関する主なデータを紹介する。
1. 全国人民法院の訴訟関連データ
(1)知的財産関連訴訟全般に関するデータ
全国の人民法院による知財関連訴訟の第一審受理件数は、民事が約45万件、行政が約2万件、刑事が約9千件であった。民事、行政訴訟の第一審受理件数は昨年並みであったが、刑事訴訟の第一審受理件数は前年比24%も増加した(【表1】参照)。
表1
全国人民法院の知財関連訴訟・新規受理件数
民事訴訟 | 行政訴訟 | 刑事訴訟 | ||||
一審 | 二審 | 一審 | 二審 | 一審 | 二審 | |
新規受理件数 | 449,923件 (-2.65%) | 30,486件 (-18.08%) | 20,849件 (+1.29%) | 11,666件 (+16.04%) | 9,120件 (+24.34%) | 1,112件 (+16.32%) |
審理終結件数 | 457,315件 (-0.65%) | 32,055件 (-17.2%) | 27,745件 (+24.19%) | 10,874件 (+17.44%) | 9,003件 (+29.22%) | 1,068件 (+10.67%) |
*()内の割合は前年比。
(2)民事事件に関するデータ
全国人民法院が新たに受理した民事訴訟第一審の権利種別ごとの内訳は、著作権関連が247,149件(54.93%)、商標関連が124,918件(27.76%)、専利関連が44,255件(9.84%)、不正競争関連が10,567件(2.35%)、技術契約関連が8,320件(1.85%)、その他が14,714件(3.27%)であった(【表2】【表3】参照)。専利関連の事件には、特許・実用新案・意匠に関する事件が含まれる。
また、故意侵害、且つ状況が深刻な知的財産権侵害行為に対し懲罰的賠償が適用された事件は460件にのぼり、前年比で44.2%も増加したことが発表された。
【表2】
全国人民法院の知財民事一審新規受理件数の前年との対比
(単位:件)
表3 全国人民法院の知財民事一審事件の種類別内訳
(3)行政訴訟に関するデータ
全国の人民法院が新たに受理した行政訴訟第一審の権利種別ごとの内訳は、商標関連が19,130件(91.76%)、専利関連が1,679件(8.05%)、著作権関連が9件(0.04%)、その他が31件(0.15%)であった。行政訴訟第一審の合計件数は前年比で1.29%増加したが、専利関連の行政訴訟は15.6%も減少している(【表4】【表5】参照)。
また、二審の審理結果としては、一審判決維持が9,420件(86.63%)、一審判決破棄が1,091件(10.03%)、一審差し戻しが2件(0.02%)、取り下げが207件(1.90%)、調解(裁判所での和解)が4件(0.04%)、その他が150件(1.38%)であった(【表6】参照)。一審判決維持率が高い点、行政訴訟でも調解が用いられる点が注目される。
【表4】
全国人民法院の知財行政一審新規受理件数の前年との対比
(単位:件)
【表5】
全国人民法院の知財行政一審事件の種類別内訳
【表6】
全国人民法院の知財行政二審事件の結果別内訳
2. 最高人民法院の訴訟関連データ
最高人民法院による知財関連訴訟の受理件数は、二審・再審合計で民事が2,646件、行政が2,808件、刑事が9,120件であった(次頁【表7】参照)。
最高人民法院は、専利(特許・実用新案・意匠)、植物新品種、集積回路に関する行政訴訟の二審・再審事件、及び特許、植物新品種、集積回路に関する契約紛争及び侵害訴訟の二審・再審事件の専属管轄を有しており、更に、一定の条件を満たす他の知財訴訟を審理している。
【表7】
最高人民法院の知財民事事件新規受理件数
3. 行政ルートでの知的財産権保護
(1)専利権に基づく行政ルートでの権利行使
2024年に全国の市場監督管理局が調査を行った専利関連の違法事件は2,074件、全国の知的財産局が処理した専利侵害紛争は7.2万件であった。これは、全国人民法院による専利関連の民事訴訟第一審受理件数4.4万件を超えており、特許・実案・意匠を含む専利権の侵害紛争では、司法ルートより行政ルートの方が多く活用されていることがわかる。また、医薬品特許に関するパテントリンケージ制度を利用した行政ルートでの権利行使は、受理件数が68件、審理終結件数が43件であった。
(2)商標権に基づく行政ルートでの権利行使
2024年に全国の市場監督管理局が調査を行った商標関連の違法事件は4.04万件、うち司法機関に移送された犯罪事件は1,220件であった。
4. まとめ
昨年の知的財産権保護状況について、民事訴訟・行政訴訟の第一審受理件数は前年とあまり変わらない数値となったが、刑事訴訟は、第一審受理件数が前年比で24.34%増加しており、近年の知的財産関連犯罪に対する取締り強化の傾向が明らかである。