特許権存続期間補償に関する実務の状況

特許権存続期間補償に関する実務の状況

 

審査に一定以上の時間がかかった出願に対する特許権存続期間の補償制度は、202161日施行の第4回改正により中国専利法に導入された。その後、2024120日に、専利法実施細則及び専利審査指南の改正により制度の詳細が定められ、更に2024726日に、オフィシャルフィーに関する通知が出されて、特許権存続期間補償請求に対する審査が開始された。

本文では、同制度の実際の運用状況、及び弊所の経験に基づく利用時の注意点を紹介する。

 

1.請求段階の手続き

特許権存続期間補償の請求は、特許権付与の公告日から3カ月以内に行う必要がある。この期間に、専利法実施細則・審査指南の規定に従って補償期間を計算し、補償が受けられる特許権のみについて、必要に応じて、請求書を提出することを勧める。補償期間は、出願日から4年又は実体審査請求から3年のいずれか遅い日から特許権登録の公告日までの間の日数から、出願書類の補正が行われた復審手続きにかかった日数等の「合理的な遅延期間」と、応答期限延長期間等の「出願人による不合理な遅延期間」とを減算して算出される。詳細な計算方法は、弊所ニュースレター Vol. 24を参照されたい。

https://www.shangchengip.com/home/jp/detailsc.html?id=160

申請書には、特許番号、発明の名称、特許権者を記入する欄があるが、補償を求める日数を記入する欄は設けられていない。申請書提出時に、1件につき200元の請求料(オフィシャルフィー)を納付する。

 

2.審査段階の手続き

知的財産局内にて請求が審査され、不備がある場合には、「審査意見通知書」が発行される。請求人は、通知書の受領日から1か月以内に意見書を提出することが可能である。弊所がこれまで受領した審査意見通知書には、以下の二種類がある。

 

(1)請求料未納

請求書の提出後、所定の期限までに請求料の納付がなされていない場合、この通知が発行される。特許権存続期間補償請求にかかるオフィシャルフィーの公表前に提出された請求については、追って公表されたオフィシャルフィーを後納する形となり、その段階でオフィシャルフィーを納付せず放棄される請求もあった。そのようなケースでは、一律に、請求料未納を指摘する審査意見通知書が出された。しかしながら、現在は、請求書提出時に請求料を納付する実務が一般的であるため、故意に請求料を納付しなかった等の特別な場合を除いて、このような審査意見通知書が発行されることはない。

 

(2)補償可能期間不存在

知的財産局内での審査(計算)の結果、補償可能期間が存在しない、即ち、特許権存続期間補償の条件に当てはまらないと判断された場合に、この通知書が発行される。

専利法実施細則・審査指南の改正前は、補償期間の具体的な計算方法が公表されていなかったため、その頃に行った一部の請求に対し、弊所も、当該通知書を受領した経験がある。その都度、補償期間の再計算を行ったが、弊所が受領した数件の通知書のうち、知的財産局の認定が誤っていたケースは1件もなく、そのため、意見書の提出も行わなかった。知的財産局の審査結果が誤っていると考える場合には、通知書の受領日から1カ月以内に意見書を提出して反論することが可能である。

 

3.審査結果通知段階の手続き

知的財産局内の審査において、特許権存続期間の補償が可能であると判断された場合、「特許権存続期間補償審査決定書」が出され、補償日数と、補償後の権利期間満了日、及び補償期間に対する年金が通知される。最近半年ほどの弊所の経験では、補償が認められるケースに対しては、平均2週間以内に「特許権存続期間補償審査決定書」が発行されている。

逆に、審査段階において審査意見通知書が発行され、請求人の意見陳述により不備が解消されなかった場合、特許権存続期間の補償を行わない旨の「特許権存続期間補償審査決定書」が発行される。

いずれの場合も、決定書の結論や記載内容に異議がある場合、受領から60日以内に行政復議を提起することが可能である。

 

4.年金納付段階の手続き

特許権存続期間の補償が認められた場合、補償期間の年金納付について、下記のように規定されている。

補償期間が1年以下の場合:補償期間の年金納付は不要である。

補償期間が1年以上の場合:補償期間の年金納付が必要である。年金の額は1年につき8,000元であり、これは、従来の第20年の年金と同額である。納付方法としては、補償前の特許権存続期間(出願日から20年)の満了日までに、全補償期間分の年金を一括で納付する必要がある。補償期間が2年以上に及ぶ場合でも、1年ごとの年金納付はできず、一括納付が必要である。

 

5.まとめ

正式運用開始以前は、補償期間の計算や費用納付をめぐり様々な議論のあった特許権存続期間補償制度だが、現在では、迅速且つ安定した審査がなされている。

制度利用時の注意点としては、申請書に補償を求める日数を記入する必要はないものの、審査指南の規定に沿って正確に補償期間を計算し、補償可能であることを確認した上で請求を行うことを勧める。また、補償が認められた場合の年金の支払い期限にも注意が必要である。1年以上の補償期間が認められた場合、補償期間の年金は、出願日から20年の従来の権利期間満了日までに、一括納付する必要がある。そのため、特に、補償対象の特許権の年金納付を第三者機関に移管した場合等は、確実な申し送りと納付の手配が必要になる。

このような弊所の実務の経験が皆様のご参考になれば幸いである。

本制度についてご不明な点等あれば、いつでもお問合せください。