2件で約150億円の賠償請求事件に関連する特許が「無効」に(2019‐7)

2019年7月3日、国家知識産権局専利局復審及び無効審理部(以下、「復審及び無効審理部」とする)は、電源プラグの安全に関する特許権及び実用新案権について、それぞれ「全部無効」の無効審決(第40759号及び第40829号審決)を下した。

本件特許権者/実用新案権者は江蘇通領科技公司(以下、「通領社」とする)で、無効審判請求人は公牛集団股フン有限公司(以下、「公牛集団」とする)である。2018年12月、公牛集団は、通領社が公牛集団の特許権及び実用新案権を侵害したとして南京中級人民法院に提訴した。その合計賠償金額は10億人民元(約150億円)で、中国特許訴訟における過去の最高賠償金額をさらに上回るものであった。提訴された公牛集団は、その後、通領社の特許権及び実用新案権の無効審判を復審及び無効審理部に請求した。

無効審判請求された通領社の特許は「サポートスライド式安全装置」(特許第ZL201010297882.4号)で、実用新案は「電源プラグ安全保護装置」(実用新案第ZL201020681902.3号)である。明細書に記載された背景技術の紹介に基づくと、従来の電源プラグには総じて安全面での隠れた危険性が存在しており、導電コネクタを不用心に手で差し込み口に差し込むと感電することが、電源プラグの安全性を低くする要因となっていたが、本件特許及び実用新案では、感電する危険を未然に防ぐ電気プラグの安全保護装置が示されているとのことである。

特許権の無効審判において、公牛集団は、①本件発明特許は中国で完成されたものであるが、公開される前に国家知識産権局専利局の秘密審査を経ることなく国外で特許出願を提出されたため、中国専利法第20条第1項の規定を満たしていない、②本件特許明細書は中国特許法第26条第3項の規定を満たしていない、③請求項1~7は自らが提出した多くの証拠又は公知常識に対して進歩性を有しないものだとして、請求項1~7を全て無効とするよう求めた。

実用新案権の無効審判において、公司集団は、本件実用新案権は中国専利法第22条第2項及び第3項に規定される新規性及び進歩性を有しないものと主張した。

特許権の無効審判請求事件では、復審及び無効審理部は、請求項1~7で保護を求めている技術方案は、証拠1と当業者の慣用技術手段との組合せに対して突出した実質的特徴及び顕著な進歩を有しないため、中国特許法22条第3項に規定される進歩性を有しないものとみなし、本件特許権の全てを無効とする審決を下した。

実用新案権の無効審判請求事件では、復審及び無効審理部は、本件実用新案権の請求項1~10は、証拠1及び当業者の慣用技術手段に対して進歩性を有しないため、本件実用新案権の全てを無効とする審決を下した。

本件は、2019年10月18日までの期間が上訴期間となっているため、今後の動きが注目されている。

中国では、知的財産環境の改善に伴い、以前と比べて特許権者による権利の保護意識が明らかに向上している。特許権訴訟件数はこの2年間で著しく増加しており、特許権者に対する賠償金額も顕著に上昇している。そのような中で提訴された本件訴訟は、業界内の中心的企業同士の争いであったこと、また賠償金額が10億元以上という空前の高額訴訟であったことから大いに注目された。今回の審決も、今後の実務に大いに影響することが予想される。



(中国知識産権報より改編)